運営メンバーの田澤です。このたび、共著で本を出しました。


梅崎修・田澤実(編著) 2013 『大学生の学びとキャリア: 入学前から卒業後までの継続調査の分析』法政大学出版.


以下の3つの問いを立てた本です。

 

・「何をもってキャリア教育の効果があったとするのか?」
・「どのような学生生活がキャリア発達を促すのか?」
・「就職活動を通じてどのようにキャリア意識は変化するのか?」

 

以下、主な内容を紹介します。


■第Ⅰ部「何をもってキャリア教育の効果があったとするのか?」

 

ここでは、キャリア意識の発達に関する効果測定テスト「キャリア・アクション・ビジョン・テスト」(以下、CAVT)を開発しました(第1章)。

 

また、CAVTの中でも、「アクション」と「ビジョン」の両方を高めることは、内定獲得には正の影響があるものの、「アクション」を高めることは早期離職にも正の影響を与えていました(第3章)。

 

この問題にどのように立ち向かうべきかは今後の課題が残りますが、各大学で行っているキャリア教育が、内定を得られればそれで良いのか、早期離職に至ることを導いてはいないか反省的に振り返るきっかけになれば幸いです。

 

なお、難関大学と非難関大学で、

 

・経済産業省の「社会人基礎力」

・文部科学省の「職業的発達にかかわる4能力領域」

・厚生労働省「若年者就職基礎能力」

 

といった諸能力を身につけることができたと思う評価が異なるのかを検討したところ、ほとんどの項目において難関大学の大学生の方が非難関大学に比べて、これらの諸能力を身につけることができたと思っていました。

 

しかし、「コミュニケーション能力」「協調性」「自己表現能力」といったコミュニケーションに関するものや、「計算・計数・就学的思考力」「社会人常識」「基本的マナー」といった社会人マナーに関するものなどにおいては、差は見られませんでした。非難関大学はこれらの力を伸ばすことについては、難関大学に追いつける教育をしている可能性があることを示しました(第4章)。


■第Ⅱ部「どのような学生生活がキャリア発達を促すのか?」

 

ここでは、大学に入る前の高校生は、ソーシャルネットワークの量よりもその質、具体的には密度と深さと異質性が正の影響を持つことが明らかになりました。そして、「同質な他者」よりも「異質な他者」との深い交流が将来の意識、特に就業意識を高めると解釈できました(第5章)。

 

また、大学1年前期で友人関係を構築できること、後期に社会、経済に教務を持つことができることは、1年の1月の時点での自尊感情に正の影響を与えていました(第6章)。

 

そこで、友人関係を構築することを、大学の中で、いかにして機会を提供するのかという視点が重要になると思います。正科の科目のみならず、学生センターやキャリアセンターなどの事務部門との連携が求められると思います。

 

また、家で勉強する時間が短い者ほど、相対的に、大学で知識・技能が身につけられるとは思っておらず、かつ、職業を先延ばしにしたい傾向が見られました(第7章)。

 

現在の学びがいかに将来の学びと結びつくのかということを、授業を通じて明示的に説明するなど学業と職業の結びつきを意識したアプローチは重要になると思います。

 

■第Ⅲ部「就職活動を通じてどのようにキャリア意識は変化するのか?」

 

ここでは、男性よりも女性の方が、就職活動開始時期において希望業種数が多いことが明らかになりました(第8章)。

 

これは、女性の方が数の面では活発であることを示しています。しかし、女性の方が男性と比べても、狭いところから業種を選択している傾向もうかがえました。特に1年生から卒業時までの推移で、その特徴は顕著にあらわれました。

 

例えば、よく就職活動では、「男子学生よりも女子学生の方が活発である」と言われることがありますが、上記の結果を考慮すると、一部、正しいことを述べているものの、一方で、誤解を招く可能性があることを示したことになります。この男女の希望業種の広さの違い、端的には、女性の希望業種の偏りが妥当なものであるのかどうかを支援者は考える必要があるということだと思います。

 

 

また、「就職開始時の自らの志望と就職活動終了時の志望では変化が生じているものの、なぜ満足度が下がらないのか」という先行研究の解釈に修正を加えました(第9章)。

 

「就職活動を通じて本人の志望というものがなくなり、内定さえもらえれば結果としてどの企業であれ満足するようになった」

 

 

「就職活動開始時の志望は、「夢」「あこがれ」程度のものであり実際に学生が真剣に志望しているわけではなかった」

 

という世間一般で言われがちな解釈について、否定的な見解を示しました。

代案として、

 

「「志望先増加」説:就職活動での情報の入手などから、本人の志望が増えたため、結果として満足度が下がらなかった」

 

 

「「企業とのマッチング」説:就職活動を通じて、最終的に会社の雰囲気(価値観)と自分の性格(価値観)とを重ね合わせた結果、自分にふさわしいと判断した進路を選んだことで、結果として満足度が下がらなかった」

 

を示しました。

 

景気が悪くなると「学生はぜいたく言わずに行けるところに行け」で片づけられてしまうことがありますが、ここで示した結果は、学生の能動性を示すものです。

 

北風と太陽ではありませんが、学生の能動性を無視した北風的アプローチでは、支援にも限界があるでしょう。学生に寄り添うためには、太陽的アプローチが必要です。


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ちなみに、今まで行ってきた下記の回が少し関係すると思います。

第4回「基礎学力」とキャリア支援 ⇒第4章
第12回「女子学生のキャリア支援」⇒ 第8章