就活支援プログラム『先輩の就活体験を語る会』は生きた学びになっているのだろうか。

第3回キャリア支援研究会のテーマ決めの話合いの一コマ

宮田 次回の研究会のテーマは、『就職ガイダンス「内定者と語る会」ではコーディネーターはどのような質問をするべきか』でいかがでしょうか。
   
川出 いいですね。

どの大学でも、内定を得た4年生が3年生に就職活動を語るイベントがおこなわれています。そのときAという企業に受かった4年生が就職活動を語った時に、聞き手の3年生はAという企業にどうすれば採用されますかと聞いてしまうことがよくあります。

本来は、どのようにして意思決定していったのかなど、Aという企業に特化しなくても学べるものはあるはずなのですが、コーディネーターの準備の仕方では、このように狭くて浅いことしか伝えられていないように思います。

宮田さんの提案の『就職ガイダンス「内定者と語る会」ではコーディネーターはどのような質問をするべきか』は、

『先輩の就活体験談を、これからの就活に活かしてもらうためにコーディネーターはどう関われるのか』
『「内定者と語る会」が聴講生にとって生きた学びの場となるには、場をどうデザインすれば良いのか』

という風に問いの立て方を変えると広がりも出そうですね。

就活支援に関わるコーディネーターの腕の見せ所ですね。
   
宮田 確かにそうですね。

きっとみんなで考えたら面白いテーマだと思う。時期的にもタイムリーだし、これでいきましょう。テーマ決まり!

そこに企画意図に沿った気づきや学びはあるでしょうか? 『先輩の就活体験を語る会』を生きた学びにするための場のデザインとは~コーディネーターは、どうかかわればよいのか~
   
田澤 キャリア・コンサルタントの資格取得用の教本などに、そのような場面でのコーディネーターとしての関わり方に関する、指導内容やガイドラインといったものはないでしょうか。
   
宮田

キャリア・コンサルティングって、対面での関わり方に関しては、いろいろテクニカルな事も学びますが、1対多の場面設定でコーディネータとしてどのように関われば良いかという情報はないと思います。

現実的にゲストスピーカーとオーディエンスの橋渡しの役割を上手にできる方もあまりいないように思います。

上手な方は、スピーカーの話を分かり易く要約しながら質問したり、本人は知っているけど知らないふりをしてわざと質問することで、オーディエンスの理解を促進したり、気づきを促したりしています。

その意味でも、研究会のテーマとして取り組む価値があるって思いますがいかがですか。

   
川出

教育の現場では、インストラクションとか教授法とか関連しそうな知識やスキルってありますが、教員が直接学生にアプローチする場合の事柄です。参考にはなると思いますが…。

スピーカーとオーディエンスの間を取り持つという観点では、社会人をゲストに招いて、学生にお話しいただく場合でも、同質の課題があるように思います。

ゲストの方の職種が学生にとって興味関心があれば良いのですが、 そうでないとまったく右から左だったりします。就活を意識しているせいか、学生の質問の内容が職業情報、どんな仕事の内容で、どんな苦労があるのか、やりがいなどならまだしも、 安定した収入がある仕事なのか。どれくらいの収入なのか。どうすれば採用されるのか。そんなことに意識が向きがちですね。


ところで田澤さん、何か手がかりになる学術的知見やキーワードってあります?

   
田澤

専門用語として、「陶冶」という言葉があります。

実質陶冶・・・個々の内容的な知識を身につけさせること(Aという企業の話を聞いて、Aのことを知ること)


形式陶冶・・・知識を教え込むことではなく、その知識を使いこなす能力を発展させること


といった2つがあります。


ところで、コーディネーターは、講話をしている4年生の内定先に、聞いている3年生全員を行かせたいことはないはずです。言い換えれば、3年生は、実質陶冶としての部分を望んでいるのではなく、形式陶冶としての部分を望んでいると思います。

ところが実際には、実質陶冶レベルの事しか伝わらず、結果的に悪い影響になってしまうことが多いのかもしれません。

   
宮田 そうですね、どんな質問が出て、どう答えれば採用されるのか、正解があると思っている。先輩講話や社会人講話での質問も、どうしても、そんな正解探しになってしまう傾向が強いですね。
   
川出 学生を見ていると、就活することを試験勉強と同じように考えていると感じます。

いきおい、いい会社に就職を決めるために低学年から、アルバイトやサークル、ボランティア活動、留学や資格取得を心がける。
いい就職するために内定率の高い大学を進学先に選ぶ。すごく違和感感じます。それはなんだかつまらない。

確かに、社会人になるための学習期間として小学校~大学が用意されているわけですが、何か違う。そもそも、日本の将来を担う人材を大学はちゃんと想定してカリキュラムを組んでいるはずなわけで、きちんと大学の勉強をすればいいんじゃないかとも思ってしまいます。
だから、わざわざインターンシップや資格取得など就活を学生が意識せざるを得ないのはなんだかおかしいんじゃないかって感じるのですね。芦田宏直さんの指摘みたいになっちゃいました。彼は、キャリア教育もキャリアセンターもいらなって彼は言っていますよね。

なんか話広げすぎちゃったかしら?
   
田澤 先の「陶冶」の話と今の川出さんの話に絡むと思うのですが、「学習の転移」という言葉があります。

先に行った学習が、次の学習にどのような影響を与えるかというもので、正の転移(良い影響)と負の転移(悪い影響)があると考えられています。

「正の転移」は、何かを学んだ結果を、あてはめたり、組み合わせたりして、あとでの学習が、よりよく進んでしまうことです。

この「学習の転移」の形として「形式陶冶」と「実質陶冶」があげられます。

小学校から高校教育で行われる、国語や数学などの教科教育は、「形式陶冶」が行われることを暗黙に信じているといって良いでしょう。これを学んでおけば、社会に出て応用が利くだろうと。それに対して、家庭科や専門学校での教育は、「実質陶冶」が期待されたものだと言って良いと思います。具体的なノウハウを学ぶ形になっています。
   
宮田 深いですね。そこまで話が広がっちゃうテーマなんですね。

あまり広がりすぎてもとりとめがなくなっちゃうので先輩講話の話に戻しますね。

先輩の就活経験を聞くことで、自分の就活経験に活かすことができるだろうと、つまり、「学習の転移」が「形式陶冶」として起こることを期待して「先輩講話」は実施されているけど、「形式陶冶」ではなく「実質陶冶」になってしまうことが問題だと言うことができるのですね。

学習の転移」が「実質陶冶」にならないようにする方法についての何か学術的な知見はないんでしょうか。
   
川出 具体的な事柄ってどうしても「実質陶冶」になってしまうような気がしますね。つい正しい手続き、正確な方法、正しいノウハウって基準で考えちゃう。数学や国語と違って、就職活動って一つ一つの具体的な行動のつながりだから、どうしても「実質陶冶」になってしまいがちなんじゃないでしょうか。その意味で、コーディネーターの役割ってとても大きいそうですね。

田澤さんいいヒントないですか?
   
田澤 そうですね。僕が意識しているキーワードは「メタ認知」。

就職活動、業種や企業などの進路選択で大切になる自分の意思決定ですが、この意思決定というのは他人の意思決定の仕方を知らないと見えきません

先輩講話の質疑応答の場面で、先輩の意思決定の仕方が明確になるような質問することがひとつポイントかもしれませんね。先輩の意思決定の仕方から、自分のこれからの選択方法を考えさせるというのがヒントになるのではないかと思います。

単なるテクニックやノウハウの習得、職業情報に関する知識習得ではなく、こういう風に意思決定したという認識まで届かないと、就職活動における自分の意思決定に至らないでしょう。
   
宮田 なるほど、それはいいヒントですね。

研究会参加者の皆さんには、それぞれ独自のノウハウを持った方もいらっしるかもしれませんね。お互いの経験知の交換に加えて、田澤さんの先の「メタ認知」などキーワードをヒントに、たくさんの気づきや学びを持ち帰ってもらえるといいな。
   
川出 そういえば宮田さん!
以前、高校で講演した時のことをその感想がすごくよかった、って嬉しそうに報告してくれたよね。

話の上手な人は自分の具体的な経験を誰の人生にも当てはまる普遍的な事柄に落とし込んで、聴き手にもまるで自分の事として感じとってもらうことができると思います。

その時はそれができていたんじゃないかしら。
   
宮田

いつも上手くわけではないんですけどね。

私の場合はですが、一対多で話すときは受講生の気持ちを推察して、問いを組み立てながら伝えるようにしています。

最初は、受講生がそのテーマに対して抱いているであろう「イメージや疑問」とか「語られがちなメッセージに対する、不安や反発」は何かということを「相手の目線で世界を見つめ、共有する」というステップから始めます。

その上で、「その目線とは違う角度から、同じ世界を見た場合の事実(または事例)を伝える」というステップで進みます。大抵は、私達にはどう見えているかということを伝えます。

そして、最後に問い直します。
「普段の目線とは違う角度からも、同じ世界を見つめ直してみて、何か変わったことはある?今はどう思う?どう見えてる?」と。

先輩講話に応用させて考えると、質問を重ねながら徐々にスピーカーと、コーディネーターと受講生の焦点を合わせていく、ということになるかもしれませんね。

受講生からの感想を読んだ時に、こちらの主張やメッセージを、丸ごと受け入れたような内容ではなく、2つの目線を融合させたことによって得た気付きになっているものが多い時に、上手くいったと分析しています。

   
川出

そう、それそれ。すごくいいヒントだと思う。

宮田さんの意識の中に、コーディネーターもオーディエンスである学生も存在していて連携しているイメージですね。

受講生の興味関心と先輩学生の話をコーディネーターが上手に質問することで、「形式陶冶」になるような学びのデザインはきっとできそうですね。

形式陶冶」になる学びが起動するにはスピーカーとコーディネーターとオーディエンスがテーマ(課題や話題)を通 じて1つになれば良ってことでしょうか。
コーディネーターは受講生の気持ちに寄り添いながら、学びの狙いに沿った視点の矛先を変えるような質問ができるといい。

先ほどの田澤さんの「メタ認知」の視点がヒントになりそうですね。

   
田澤 実質陶冶」や「形式陶冶」の考えを「援用」できるか、もう少し調べてみます。

先輩講話の場を狭い学びで終えないようにするためにどうすればいいのか。さらに具体的で明確な視点や手立てが得られる研究会にしたいですね。
   
宮田 3人だけでも、いろいろ見えてきた事柄があるので、今から研究会がとっても楽しみ!

じゃぁ今度は川出さん、進行役お願いします! 私は今回参加者の皆さんのお話に加わりたいからよろしくね。
   
川出 えぇ! 仕方ないなぁ。どうなっても知らないよ。

そうだ! ゆくゆく参加者の皆さんにも進行約やファシリテーターお願いできるような形も考えたいですね。
   
宮田 そうですね!

ゴールイメージ

  • コーディネーターして、「実質陶冶」に止まらない学びを実現するための、先輩講話の場での関わり方について具体的な手立てを獲得する。
    • 気づきや学びを促す先輩スピーカーへの質問内容
    • 事前や事後における課題やレポート
    • 先輩スピーカーとの摺り合わせ など

ヒントになるキーワード

「学びの転移」「実質陶冶」「形式陶冶」「メタ認知」

オンラインDE研究会

本テーマに関するご意見・ご経験などをお寄せくださいませ。

出席予定の方からのコメントもお待ちしています!

※いたずら防止の観点からすぐにページに反映されません。ご了承ください。

コメント: 0